大いなるまとめ 【書評】大いなる不安定 ヌリエル・ルービニ、スティーブン・ミーム著 山岡洋一、北川知子訳
採点:★★★★☆
サブプライム関連の本は沢山あるが、本書が一番のおススメ。リーマンショックって結局なんだったの?という人におススメ
現在の金融システムはそもそも不安定であり、今回の金融危機もブラック・スワンではなく、今までに何度となく訪れた金融崩壊と全く一緒である、という視点から書かれた一冊。金融危機の歴史を振り返りながら、現代の金融システム・商品の問題点を指摘し、今後のあるべき姿を提案する、という包括的な内容になっており、読み物としてのワクワク感は世紀の空売りには負けるが、しっかりと理解が深まる。世紀の空売りと本書を読めば、取り合えず金融危機はある程度理解できる(はず)。
サブプライム関連の本は沢山あるが、本書が一番のおススメ。リーマンショックって結局なんだったの?という人におススメ
現在の金融システムはそもそも不安定であり、今回の金融危機もブラック・スワンではなく、今までに何度となく訪れた金融崩壊と全く一緒である、という視点から書かれた一冊。金融危機の歴史を振り返りながら、現代の金融システム・商品の問題点を指摘し、今後のあるべき姿を提案する、という包括的な内容になっており、読み物としてのワクワク感は世紀の空売りには負けるが、しっかりと理解が深まる。世紀の空売りと本書を読めば、取り合えず金融危機はある程度理解できる(はず)。
![]() | 大いなる不安定 (2010/10/01) ヌリエル・ルービニ、スティーブン・ミーム 他 商品詳細を見る |
■あらすじ
今回の金融危機は百年に一度のものであり、誰にも予測はできなかった。という言説をルービニははっきりと否定する。今回の金融危機は過去何度も起きたものと全く同じであり、その危機に警告を発していた人は何人もいたのだ。
技術革新(今回の場合は新手の金融商品)を契機としてバブルがもたらされ、バブルが崩壊する過程は驚くほど似ており、何度も繰り返されている。ブレトン・ウッズ体制構築後の安定期(Great Moderation)こそが「まったく異例の時代」なのだ。
今回の危機の本質は我々の”強欲さ”にあるのではなく(我々は昔から強欲であり、最近急に強欲になったのではない)、その”強欲さ”を危険な方向に導くインセンティブと報酬の構造にあった。株主-経営陣-トレーダーのインセンティブがちぐはぐになれば当然コーポレートガバナンスは働かないし、FRBや各種規制監督当局は眠りこけていた。
我々は今回の危機から何を学び、どのようにして新たな「大いなる安定」の時代を構築していけばよいのか。縮小する兆しの見えないグローバルインバランスやソブリンリスクにも話を展開しながら、今後のあるべきシステムを考える一冊。
■感想
ブラック・スワンのタレブが「唯一事前に危機を予測していた経済学者」というだけあって、非常に面白かった。本書でルービニは「今回の金融危機は予測可能であり、白い白鳥だ」と主張しているが、この部分については、タレブも強さと脆さで補足している。9・11の被害者や我々にとってはブラック・スワンだが、実行犯にとってはただの白鳥である。ルービニや世紀の空売りの登場人物にとってはただの白鳥だったが、多くの人にとってはやはりブラック・スワンだったということだろう。「確立」があくまでも主観的なものであることを考えると、白鳥の色は見る人によって異なる。
ファンド・オブ・ファンズの仕組みなども丁寧に解説されており、CDSやCDOなど何となく分かったつもりになっている概念がすっきり整理された気がする。システムやマクロの話だけでなく、ミクロな部分での様々な影響についての描写も新鮮だった。「金融危機」は遠くの世界で起こっているのではなく、本当に身近な所にまで影響を及ぼしている。
金融は上記のような非常に重要な役割を担っているので大きな金融機関はつぶせないのだ(Too big to fail)。ルービニは「繋がりすぎていて、潰せない」と表現しているが、やはりこのような重要な機関を完全に自由に任せておくのは危険だろう。ルービニは本書で金融機関の機能分離、規制機関(とその人材)の強化を強く主張している。潰れてもいいくらい小さくするか、大きいんだから潰れるリスクは犯させない、という視点から金融システムを構築しなければいけない、早急に。ゴールドマンやモルガン等は早速同じビジネスを再開しているようだし・・・
今回の危機をもたらしたシステムの「不安定さ」を解明し、新たな「大いなる安定」を構築しようとルービニは訴える。
今回の金融危機は百年に一度のものであり、誰にも予測はできなかった。という言説をルービニははっきりと否定する。今回の金融危機は過去何度も起きたものと全く同じであり、その危機に警告を発していた人は何人もいたのだ。
技術革新(今回の場合は新手の金融商品)を契機としてバブルがもたらされ、バブルが崩壊する過程は驚くほど似ており、何度も繰り返されている。ブレトン・ウッズ体制構築後の安定期(Great Moderation)こそが「まったく異例の時代」なのだ。
今回の危機の本質は我々の”強欲さ”にあるのではなく(我々は昔から強欲であり、最近急に強欲になったのではない)、その”強欲さ”を危険な方向に導くインセンティブと報酬の構造にあった。株主-経営陣-トレーダーのインセンティブがちぐはぐになれば当然コーポレートガバナンスは働かないし、FRBや各種規制監督当局は眠りこけていた。
我々は今回の危機から何を学び、どのようにして新たな「大いなる安定」の時代を構築していけばよいのか。縮小する兆しの見えないグローバルインバランスやソブリンリスクにも話を展開しながら、今後のあるべきシステムを考える一冊。
■感想
ブラック・スワンのタレブが「唯一事前に危機を予測していた経済学者」というだけあって、非常に面白かった。本書でルービニは「今回の金融危機は予測可能であり、白い白鳥だ」と主張しているが、この部分については、タレブも強さと脆さで補足している。9・11の被害者や我々にとってはブラック・スワンだが、実行犯にとってはただの白鳥である。ルービニや世紀の空売りの登場人物にとってはただの白鳥だったが、多くの人にとってはやはりブラック・スワンだったということだろう。「確立」があくまでも主観的なものであることを考えると、白鳥の色は見る人によって異なる。
ファンド・オブ・ファンズの仕組みなども丁寧に解説されており、CDSやCDOなど何となく分かったつもりになっている概念がすっきり整理された気がする。システムやマクロの話だけでなく、ミクロな部分での様々な影響についての描写も新鮮だった。「金融危機」は遠くの世界で起こっているのではなく、本当に身近な所にまで影響を及ぼしている。
普段は退屈な貿易金融の世界が、真っ先に打撃を受けた。銀行は通常、輸送中の物品、たとえば、中国からアメリカに送られる商品の最終目的地での支払いを保証するため、「信用状」を発行する。とこりが、リーマン・ブラザーズの破綻後、信用市場が凍り付くと、銀行はこの必須の金融商品の提供を中止した。貿易はほとんど休止状態になり、それまでほとんど注目されていなかったバルチック海運指数(鉄鉱石、乾物などを運ぶ外航不定期船の運賃の指数)が、九十パーセント近く下落した。
金融は上記のような非常に重要な役割を担っているので大きな金融機関はつぶせないのだ(Too big to fail)。ルービニは「繋がりすぎていて、潰せない」と表現しているが、やはりこのような重要な機関を完全に自由に任せておくのは危険だろう。ルービニは本書で金融機関の機能分離、規制機関(とその人材)の強化を強く主張している。潰れてもいいくらい小さくするか、大きいんだから潰れるリスクは犯させない、という視点から金融システムを構築しなければいけない、早急に。ゴールドマンやモルガン等は早速同じビジネスを再開しているようだし・・・
今回の危機をもたらしたシステムの「不安定さ」を解明し、新たな「大いなる安定」を構築しようとルービニは訴える。
大恐慌以来の金融崩壊に襲われた後、多くの政策担当者や専門家が、「金融危機は貴重な機会であり、無駄にするわけにはいかない」と述べている。そのとおりだ、今回の危機は、必要な改革を促進するための機会を与えてくれている。この機会を活かさなければ、さらに深刻な破壊的危機の種をまくことになるだろう。この機会はまさに貴重であり、これを無駄にすれば悲劇的である。新たな悲劇は避けられるだろうか。無理だと考えるなら、ブラック・スワンに賭けるといい。
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