閃きの源泉 【書評】『閃け!棋士に挑むコンピューター』 田中徹&難波美帆
本のキュレーター勉強会第2回課題本
コンピューター、人工知能に興味がある人はもちろん、「人間らしさ」に興味のある人にもオススメ
コンピューター、人工知能に興味がある人はもちろん、「人間らしさ」に興味のある人にもオススメ
![]() | 閃け!棋士に挑むコンピュータ (2011/02/10) 田中 徹、難波 美帆 他 商品詳細を見る |
本書は2010年10月11日に行われた女流棋士清水市代とあから2010の対局を中心に、これまでのコンピュータ将棋、人工知能の歴史とこれからについて書かれた一冊である。まえがきにもあるように、人工知能や将棋に馴染みのない人にも分かり易い表現で書かれているので、コンピュータの話ってなんだか難しそうだなと思う人にもオススメできる。
下の画像は本書の主人公「あから」(10の224乗を表す言葉)のマスコットキャラクターである。絵に描いたようなゆるキャラだ。(実際絵に描いてあるのだが。)

このキャラクターの是非はともかくとして、日本将棋連盟の行動はマーケティング思考を感じさせる。この対局も色々な媒体できっちり取り上げられていたと記憶している。2005年以降公の場で許可なくプロがコンピュータと対戦することを禁じていたが、今回の対局が決まると仰々しくコンピュータ側の情報処理学会から毛筆の挑戦状を受け取り、会見を盛り上げている。これまで対局を禁止していたのは負けが大きく報じられることを恐れたという面もあるだろうが、そもそもプロ将棋の対局はエンターテインメントであり、大きく報じられてこそ意味がある。正しい決断だと思う。チェスのチャンピオンがコンピュータに負けてもチェス人口は減っていないようだし。
棋士選択も巧みである。プロ敗北のニュースが大きく報じられても、その先にはまだまだ男性のトッププロがいるし、勝てば堂々と胸を張れる。勝負論的にも将棋普及のためにも最適な手を打ったのだ。
2007年の渡辺竜王VSボナンザの賞金は1000万円だったそうだが、プロ棋士対コンピュータはしっかりとお金の取れるイベントとなっている。この対局も大盛況だった模様である(イベントのレポート)。
とはいえ、いくら将棋連盟が盛り上げようと思っても肝心の対戦相手であるコンピュータが弱ければイベントとして成立しない。将棋の手は全てで10の226乗あり、10手先までの全ての手を読もうとするだけで、1分間に1億手を読んだとしても、20万年かかってしまう。『コンピュータが仕事を奪う』(拙ブログによる書評)にあるように、このような選択肢が連続して複数続く場合には指数爆発を起こしてしまい、コンピュータの計算能力の限界を超えてしまうのだ。では、どのようにすれば効率的に差し手を選択できるようになるだろうか。プロ棋士が行っているように瞬時に手を絞り込むような閃きをコンピュータは獲得できるのだろうか。その問いに答えるためには、人間を理解する必要がある。
いずれは羽生永世6冠や渡辺竜王を負かしてしまうコンピュータが現れる日が来るのかもしれない。その指し手に人間は閃きを感じるかもしれないが、恐らくそのコンピュータはチェスのルールすら知らないだろう。現在の延長線上にあるコンピュータが未知の世界へは全く対応できないのに比べ、人間は経験を汎用化して他の場面にも応用することができる。なぜ人間はこのような能力を獲得できたのだろう。その能力をコンピュータにも実装できれば、コンピュータの概念は大きく変わってしまうかもしれない。まだまだ、答えは出ていないが、本書ではその1つの方向性が示されている。詳細は是非本書で確認して欲しい。
本書で興味の深まった人には『ボナンザVS勝負脳』(拙ブログによる書評)もオススメである。本書にも登場するボナンザ開発者保木氏本人が全幅探索やミニマックス法について分かり易く解説している。人工知能については『ロボットとは何か』がオススメ、ロボットという他者を考えることで人間とは何かを考えることができる。
下の画像は本書の主人公「あから」(10の224乗を表す言葉)のマスコットキャラクターである。絵に描いたようなゆるキャラだ。(実際絵に描いてあるのだが。)

このキャラクターの是非はともかくとして、日本将棋連盟の行動はマーケティング思考を感じさせる。この対局も色々な媒体できっちり取り上げられていたと記憶している。2005年以降公の場で許可なくプロがコンピュータと対戦することを禁じていたが、今回の対局が決まると仰々しくコンピュータ側の情報処理学会から毛筆の挑戦状を受け取り、会見を盛り上げている。これまで対局を禁止していたのは負けが大きく報じられることを恐れたという面もあるだろうが、そもそもプロ将棋の対局はエンターテインメントであり、大きく報じられてこそ意味がある。正しい決断だと思う。チェスのチャンピオンがコンピュータに負けてもチェス人口は減っていないようだし。
棋士選択も巧みである。プロ敗北のニュースが大きく報じられても、その先にはまだまだ男性のトッププロがいるし、勝てば堂々と胸を張れる。勝負論的にも将棋普及のためにも最適な手を打ったのだ。
2007年の渡辺竜王VSボナンザの賞金は1000万円だったそうだが、プロ棋士対コンピュータはしっかりとお金の取れるイベントとなっている。この対局も大盛況だった模様である(イベントのレポート)。
とはいえ、いくら将棋連盟が盛り上げようと思っても肝心の対戦相手であるコンピュータが弱ければイベントとして成立しない。将棋の手は全てで10の226乗あり、10手先までの全ての手を読もうとするだけで、1分間に1億手を読んだとしても、20万年かかってしまう。『コンピュータが仕事を奪う』(拙ブログによる書評)にあるように、このような選択肢が連続して複数続く場合には指数爆発を起こしてしまい、コンピュータの計算能力の限界を超えてしまうのだ。では、どのようにすれば効率的に差し手を選択できるようになるだろうか。プロ棋士が行っているように瞬時に手を絞り込むような閃きをコンピュータは獲得できるのだろうか。その問いに答えるためには、人間を理解する必要がある。
いずれは羽生永世6冠や渡辺竜王を負かしてしまうコンピュータが現れる日が来るのかもしれない。その指し手に人間は閃きを感じるかもしれないが、恐らくそのコンピュータはチェスのルールすら知らないだろう。現在の延長線上にあるコンピュータが未知の世界へは全く対応できないのに比べ、人間は経験を汎用化して他の場面にも応用することができる。なぜ人間はこのような能力を獲得できたのだろう。その能力をコンピュータにも実装できれば、コンピュータの概念は大きく変わってしまうかもしれない。まだまだ、答えは出ていないが、本書ではその1つの方向性が示されている。詳細は是非本書で確認して欲しい。
本書で興味の深まった人には『ボナンザVS勝負脳』(拙ブログによる書評)もオススメである。本書にも登場するボナンザ開発者保木氏本人が全幅探索やミニマックス法について分かり易く解説している。人工知能については『ロボットとは何か』がオススメ、ロボットという他者を考えることで人間とは何かを考えることができる。
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